東京高等裁判所 昭和41年(う)2184号 判決
被告人 東野英一
〔抄 録〕
昭和四一年七月一三日最高裁判所大法廷判決が、商品取引所法第九二条にいう「物」の中に、いわゆる代用証券は含まれない、として、商品仲買人が委託者から預り保管中の代用証券を、委託者の書面による同意を得ないで処分しても同条違反の罪を構成しない、としていることは所論指摘のとおりである。しかしながら、右判決は、商品取引所法第九二条違反の罪を構成しない、というだけで、業務上横領罪の成否は別に論ずべきものとしており、右判決をもつて直ちに、本件被告人の所為につき業務上横領罪の成立を否定する論拠とすることはできない。
また、右判決において、裁判官の少数意見が、仲買人は元来充用証券の上に一種の質権を有しているのであるから、民法第三四八条によりその権利の存続期間内において自巳の責任をもつて質物を転質する権利を有し、したがつて、右の範囲において自巳の債務のため担保に供することは適法な権利行使である趣旨を判示していることも所論指摘のとおりである。所論は、右少数意見の判示を援用して、被告人が代用証券を担保に差し入れたのも、転質の権利行使として適法であり横領罪を構成しない、と主張する。しかしながら、本件代用証券は、丸八商事が極度の資金難に陥り、前記山崎治郎個人に対する債務の決済に迫られて、その金策のため処分されたものであつて、被告人が右代用証券に対して有する質権の範囲、存続期間を確かめた上、顧客に損害を生ぜしめない範囲において、被告人が自巳の責任をもつてこれを担保に差し入れたものとは認め難く、転質の権利行使としてこれを適法視することはできない。また右代理証券に対し丸八商事の有する質権が、継続的な委託取引に包含される一切の債務を保する、所論根質権に匹敵するものであるとしても、被告人の本件所為は、到底質権者が自己の責任をもつて質物を転質する摘法な権利行使としてなされたものとは認め難く、業務上横領罪の成立を否定することはできない。
また、所論は代用証券の預託は消費寄託であるから、その所有権は受託者に属し、これを自由処分しても横領罪を構成しない、と主張するけれども、代用証券の預託を消費寄託契約と解することはできないことは多言を要しないところであつて、所論はその前提において排斥を免れない。
次に山田貞穂より百万円を借り受ける際合計一万三千九百株を一括して担保に差し入れ、また、三松秀太郎より金四十一万円を借り受ける際、合計五千二百二十五株の株券を一括して担保として入質した所為は、単一の犯意をもつて包括してなされた一個の犯行とみるのが相当であり、これと同一の見解に立つ原判決は正当である。論旨は理由がない。
(関谷 内田 金子)